akuyan to

イベント/旅行/デザイン/おいしいもの...

塩づくり・塩の歴史・塩工場見学、兵庫県赤穂で塩とにがりの旅

日本歴史のなかで「赤穂浪士」という言葉を聞いたことがある人は多いだろう。その「赤穂」とは現在の兵庫県赤穂市にあたる海辺の街だ。この赤穂、実は塩作りの場所としても深い歴史がある。今回、赤穂にある「塩の国」と、天塩で知られる「株式会社赤穂化成」の塩工場見学にでかけてきた。


塩とにがりを求めて


そもそも今回なぜ塩めぐりの旅に出かけたかといえば、塩といえばにがりが切っても切り離せないものであるからだ。豆腐マイスターになってから、豆腐を作るのに使用する凝固剤にはにがり以外にも色々な種類があると知ったが、実はにがりの中にもかなり多くの種類がある。
なんとなく、塩を作る際に一緒にできるものがにがりである、ということはふんわりとした知識でしってはいたものの、どういう過程で作られてなぜにがりに差ができているのかをきちんと学びたいとおもった。


兵庫県赤穂市は東京から行くには相生まで新幹線、そこから赤穂線に乗って播州赤穂駅まで向かう。本当は最寄り駅は別にあるのだが、タクシー乗り場やお土産屋さんがある近くて便利な駅は播州赤穂なので、車で行く人以外はそこを目指してもらった方がいいだろう。

f:id:akuyan:20190318123250j:plain


塩の国で塩づくり体験


工場見学の予定時間まで時間があったので、駅からタクシーで、まずは赤穂市立海洋科学館内にある塩の国へ向かった。この科学館は基本名前のとおり海洋に関する様々な事象を学べる場所なのだが、特に塩に特化している。


赤穂海浜公園の風の門から歩いて、赤穂市立海洋科学館に到着。入場料200円を払うと、パフレットと科学館で作られた塩がもらえる。中に入ると、塩でできた彫刻や、塩クイズなど塩に関する展示があるが、さらにここでは塩づくり体験ができる。用意された土鍋と海水とコンロあと木ベラ、係の方が塩作りの歴史と塩の作り方について説明しれくれた。


ここでの作り方は簡単で、海水をいれた土鍋を火にかけ木ベラでぐるぐるかき混ぜる。水分が減ってきたら木ベラを二本つかいちゃかちゃか混ぜていく。水分がほとんどなくなってきたら複数人で一緒にごりごりかき混ぜ、水分がなくなったら最後に大きめのスプーンを使って塩の塊をくだいていく。

f:id:akuyan:20190318133946j:plain

土鍋の中の海水は、水分を飛ばした濃い塩水「鹹水(かんすい)」で、鍋でぐつぐつ煮始めて作業通して5分もしない程度でさらさらの塩ができる。これを体験してからこの後に続くいくつかの塩作りスポットを巡ると理解が深まりやすい。つくった塩はお土産に持って帰ることができる。できたての塩はあったかくてわりとマイルド、塩むすびとかでシンプル食べたい。

f:id:akuyan:20190318134921j:plain


塩づくりの基本ステップと入浜式塩田・流下式塩田


塩の簡単な作り方は濃い塩水を煮詰めるだけだが、実際に流通する大量の塩はどのように作られているのだろうか。江戸時代前半頃から用いられていた「入浜式塩田」と、近年まで主流な作り方であった「流下式塩田」を、塩づくり体験した建物を出てすぐ目の前に見ることができる。


基本的な工程は、先ほどの簡易的な塩づくり体験も含めてどれもこの4ステップからなる。
1.海水をとる
2.水分をある程度とばして鹹水を作る
3.鹹水を煮詰める
4.塩の結晶をつくって調整する


入浜式塩田は潮の満ち引きを利用した塩づくりだ。砂の田んぼ上に満潮時には海水が流れてくるようにすると、干潮時には砂に染み込んだ海水の水分が蒸発し、潮が砂に残る。また満潮時になると、海水が流れ込んできて先ほどの塩と海水が混ざり濃度が上がる。それを何度か繰り替えすことで鹹水がつくられる。赤穂はこの入浜式塩田を日本で一番大きく作ったことから塩の産地として栄え、江戸時代後期には全国の7割の塩がここで作られていたそうだ。


流下式塩田は、木の枝を吊るしてそこに海水をどんどんかけていき水を蒸発させて鹹水をつくる。塩づくり体験で使った鹹水は、塩の国のこの流下式塩田で作られた鹹水だ。
海水の時点では塩分濃度3%のところが、鹹水の時点では18%程度になっているらしい。


ちなみに 現在流通している塩の多くは「イオン(交換)膜濃縮」といって、海水に電極をひたし電気を流すことで科学的に作り出されている。そのため上記の4ステップとは作り方がまったく異なり、塩の成分も変わってくるそうだ。どの製法で作られている塩なのかは、それぞれのパッケージの記載を確認してみよう。



にがりが生まれるタイミングとにがりの重要さ


塩の作り方にいくつか方法があったように、同じ分だけにがりにも作り方がある。方法は塩を作る過程と基本同じで、塩にならなかった鹹水の余りがにがりだ。
「鍋でグツグツ煮込んだり日干しなどで水をすべて蒸発させてしまったら、余り部分なんてないのでは?」と思っていたが、そもそも塩を作るときはそこまで全ての水分を蒸発させないそうだ。最初に簡易的に手作りした塩は「にがり成分ごと塩にした」状態であるとのこと。宮古島で生成されている雪塩など、一部にがり成分ごと閉じ込める形で作られている塩もあるらしい。

f:id:akuyan:20190407230444p:plain

では一般的にはどこまで水を蒸発させるかといえば、塩化ナトリウムが結晶化するまで。海水の中に含まれている成分のうち、塩化ナトリウムが結晶化されたら(どうなったらそうなったかを判断するかはそれぞれの作り手のこだわり次第)今度はしばらくその水分がまだある状態で塩を寝かす。そうすることで、にがりとなる塩化マグネシウム・硫酸マグネシウム・塩化カリウムなどのミネラル分を塩になる予定の結晶になじませ塩の味を変えることができる。
またここで、どれだけ水分を蒸発させたか、塩化ナトリウムの結晶となじませたか次第で後に残る「にがり」部分の成分が変わってくるということだ。

f:id:akuyan:20190318140940j:plain
入浜式でできた鹹水を煮詰めるところ

f:id:akuyan:20190318140932j:plain
塩とにがりをなじませて、塩の成分を調整するところ


にがりをうまく取り入れ作られる赤穂化成の天塩


塩の国を堪能したところで、お待ちかね赤穂化成の工場見学へ。塩の国からはタクシーで10分ほどで赤穂化成本社に到着した。本社内に最近つくられたという天塩スタジオで、ツアーのガイダンスが行われた。


あいにくと工場自体は稼働していなかったが、塩を生成し袋詰めするところの機械を一通り見学。

赤穂の天塩は、当時日本の塩田で作られていた成分をもとに「差塩製法」で作られているとのこと。塩自体は、海外で天日干しされた塩(まだ完璧に精製されていないもの)を輸入し、そこに塩田で作られたにがりを加えることで、赤穂で昔から作られていた塩を再現しているものになるそうだ。

f:id:akuyan:20190318153413j:plain

また赤穂化成では食品としての塩以外にも、塩化マグネシウムをはじめとした無機化合物や、薬、塗料などが工場で作られており、その元となる海水は本社目の前の海からひいてきているとのこと。
普段くちにしている塩だけでなく、普段使っている様々なものに活用されていると知って海のすごさを改めて実感した。


施設内には「おいしい豆腐をつくる研究室」があり、どのようなにがりだったらおいしい豆腐になるかを日夜研究し、その成果は社員のみなさまでいただいているそうだ。ぜひ1つ購入させてほしい。


知っているようで知らなかった塩のこと

なんとなくしかわかっていなかったことを今回きちんと歴史と共に知ることができて、何気なく使っていた塩の見方が変わった。


これからはわかりやすい塩の違いだけでなく、塩の成分などにも注目して豆腐にあわせてみたりなど挑戦したい。


www.ako-kaiyo.jp