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「なるはや」なんて期日は存在しない

制作と呼ばれる仕事にたずさわるなかで、未だ消え去らない悪しき因習をそろそろ撲滅しておきたい。


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「なるはや」という言葉をこれまで聞いたことがない、知らなかった、という人に教えるのはとても忍びない。できれば知らないままの人生を過ごしてほしかったが説明すると「なるべくはやめに」という言葉の略語である。
この言葉が例えば待ち合わせしていた相手が遅れる電話をいれてきたときに「なるはやでこい」なんて使われ方であれば、別に何もまったく問題はなく、遅刻してくるやつが悪いのでなるべく全速力ではやくこいというほかない。


しかし問題はこの言葉が制作進行のなかで使われることにある。



制作という仕事はただ作ればいいというものではなく、事前の企画検討からはじまりきちんとスケジュールをたてたうえで必要なものをそろえて、そして制作者に制作をお願いする。もちろんお願いする際は「公開日はいつで、いつまでに公開準備が終わっている必要があるので、制作物の完成は○日までにお願いします」というような、全体のスケジュールを加味したうえで制作にどの程度の時間をあてていいかをきちんと伝える必要がある。制作者とスケジュール管理者はほとんどの場合で別の担当者なので(例えばWebであればデザイナーとディレクターのような)、ここできちんとスケジュールをみる人が制作者に制作にあてられる時間を述べなければ、制作者もどういう進行で制作したらいいのかわからなくなってしまうし、〆切が伝えられなければ優先順位低く作ってもいいのかな、と思ってしまう。このスケジュール管理というのはとてもだいじな仕事だ。


とはいえ、制作物というのはそんな毎回毎回きちんとガッチリスケジュールをたててぴっちりぎっちりできるようなモノばかりではない。
ある日いきなり降ってわいて急ぎでブツを仕上げなければならないなんてことはよくよくよくよくある。
Web制作の場合であれば、降ってわいた制作案件がディレクターに届いたら、ディレクターは可能な限りそれらに関する内容をまとめていちはやくデザイナーやコーダーへ依頼する必要がある。1分1秒が命取りになりかねない。



ディレクター「こちらの案件を急ぎで対応しないといけなくなりまして」
デザイナー「急ぎですか……」
ディレクター「対応お願いできますか?」
デザイナー「調整してみます。いつまでに仕上げればいいですか?」
ディレクター「なるはやでお願いします



そう、そんなとき焦ったディレクターはついうっかり、そうついうっかりこういってしまうのだ。「なるはやで」と。
ふざけんななるはやなんてすけじゅーるじゃねぇ。


降ってわいた案件というのはバグやらエラーが出ているので対応せざるを得ないものことではなく、全く別の案件で今日の夕方までにとか、明日までに出さないとまずいモノだったりすることが多い。なるほど、なるはやに出せた方がいいに決まってる。別にいいじゃん、なんで「なるはや」がダメなの?と思うかもしれない。
でもあなたにとっての「なるべくはやめ」ってどのくらいの時間を指しているんだろうか。


制作を進めるとき、当たり前だが制作者だってはやく終わらせてのんびりしたい。はやく終われば他の細かいとこに手をいれたり、次の仕事ができたりいいこと尽くめだ。はやく終わらせたくないわけがない。だからデフォルトで基本的に限りなく最短で終わるように制作に努めているのに、それに対して「なるはや」ってもはや制作者に対して失礼極まりない。
急ぎの案件なんて前振りされたらただでさえ可能な限りはやく仕上げようとギアにエンジンいれて、よし終わらせるぞ!と力がはいるところで、それをどこまで持って行けばいいのか目的地を聞いているのに「とりあえず全力で走っててください、今から調整するんで」みたいな返答されたら意気消沈にもほどがある。


「なるはや」を使う人は基本的にスケジュール管理ができていない場合がほとんどだ。
今の状況と、これから達成したい状況を鑑みて逆算すれば「最低ラインこの時間までに何ができてないと間に合わない」というのは絶対に出てくる。たまに計算すると「あれ、もうこれアウトじゃない…?」みたいなこともあるが、それは逆に制作者にお願いする前にわかってないといけない話だ。作業にはいってもらった後にアウトなのがわかって、ごめんなさい、やっぱり今回はナシでいきますみたいな振り回されている制作者はちょいちょい見る。


実際この「なるはや」という言葉は自分がデザイナー側のときも、そして自分がディレクターとして他のディレクターの手伝いをしているときにも油断すると出てくる言葉で、そのたび「で、それは何時ですか?」と聞き返している。
制作の指示を出す側がこの言葉をいうのはスケジューリングの怠慢にほかならないし無責任な発言でしかないので絶対に言ってはいけないし、また制作する側(それを聞いた側)は言われたら絶対に折れずに聞き返すというクセをつけておくといいだろう。


しかしなかには制作をお願いするときに少しでもはやくモノがもらいたい、でもなんて言っていいかわからないという場合もあるだろう。そういうときは制作する人に「このタスク最短でいつ終わりますか?」と確認してほしい。仕事として制作をしている以上、その質問をされて答えられない制作者はいない。そうすると「○○時にはわたせます」「○○分後には送ります」なんて返事がかえってくるのでそれでよければOKだし、それが難しい時間であれば『何をどうすればもっと時間の短縮になるのか』を確認したうえで制作を依頼するといい。


「なるはや」という言葉をこれまで数多くの制作者が撲滅しようと頑張ってきたのに未だになくならないこの現状を憂うしかないが、もうそろそろいい加減、「なるはや」という言葉がどれくらい無責任な言葉なのか自覚して他覚して、撲滅されればいいと願っている。